営業マン中野猛の最初の顧客

中野猛は、休日に近くの公園でギターを爪弾く事だけが、安らぎでした。
それは、彼の仕事が飛び込み営業であり、余り外交的とは言えない彼の性格には合わない物であったからです。
とは言え、彼の会社は名の知れた商社であった為に、給料やボーナスは悪くありません。
しかし中野猛の勤める営業部は厳しく、毎日朝礼時に各営業マンの営業成績を比較される事が、嫌で堪りませんでした。
ギターを弾きながら彼は、辞めるかと独り立ちしました。
しかし彼自身には、ギターを弾く事以外の特別なスキルは無い事は分かっていましたから、何をして良いのかさえも見当がつきません。
そんなある時、ある家からギターを弾く音が聞こえて来ました。
彼は仕事だという事も忘れて、その家に吸い込まれる様に入って行くと、年配と思しき男性が、中野猛が大好きなミュージシャンの曲を演奏していたのです。
ここで自分の職務を思い出し名刺を差し出しましたが、彼の口から出て来たのは紹介するべき商品の話しでは無く、ギターの話しでした。
彼は自分もギターや、男性が弾いていた曲も大好きという話しを始めると、何時の間にかギターの話しで盛り上がりました。
ですから、商品の話しは何も出来なかったのです。
しかし後日会社にその男性から電話があり、商品を買うからまた、ギターの話しをしようと言って貰えたのです。
彼の最初の顧客が、この男性であったという事は言うまでも無いでしょう。

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